最強タッグ、エスプレッソと、グラッパ!(1)

グラッパのボトル・デザインはかわいくて、おしゃれなものが多い。その主生産地である北イタリアは、ガラス製品の有数の産地でもある。

グラッパと呼べるのは、イタリアの材料を使い、イタリアで蒸留したものだけだ。ワインをつくる時にでるブドウのしぼりカス、その皮や、種子、果梗などヴィナッチェ(VINACCE)を残し、再発酵させて蒸留したり、「バーニョマリア」という湯煎の方法などで熱を加え、蒸留し、70度前後のアルコールを得て、水を加え、時には、樽で数年寝かせたりもする。

日本ではブランディーのカテゴリーに入り、アルコール度数は、40度前後。通常は、無色透明。ブドウ本来の香りをのこす。 口当たりがかろやかなうえに、蒸留した段階で、すでにあざやかな香りと、心地良い甘味がある。

しかし、味わいは、荒々しい。値段も、安いものは安く、材料からしても、まさしく庶民の味方なのである。それもそのはず、その成り立ちが、貴族やら金持ち連中に搾取され、自分たちで育て上げたブドウでつくったワインすら飲めなかった農民たちが生んだお酒でもあるからだ。

歴史は、1000年ぐらい前ともいわれている。ルネッサンスの頃、蒸留の技術が進歩し、北イタリアを中心に発展した。

グラッパという名称は、1989年にヨーロッパで認められ、イタリア国内で規定が整ったのが、1997年である。ちなみに、フランスでは、マール。樽熟成で、色つきが一般的である。

でも、最近は、樽熟成タイプのものも増えてきたし、またうんと高級化している。樽熟成はオークの樽が使われ、5年もの、15年ものとがある。

名前の由来には、2つの説がある。一つは、北イタリアでブドウの房を意味するgraspaという説、もう一つは、ヴェネト州の山間部にある「バッサーノ・デル・グラッパ(グラッパ山の麓)」という町がグラッパの発祥で、名前もその地名から、という説もあるが、現在ではどうも否定的なようだ。

ただし、1601年には蒸留所組合ができていたり、現在でも、高品質なグラッパのPOLI社の「グラッパ・ミュージアム」や、1779年設立の老舗NARDINI社の「グラッペリア」もあり、グラッパの町としてたいへん有名である。

ちょいとクセのあるグラッパは、どういうものかちょいとクセになる。常温で、ストレート。
「クイッと、一杯! 」
とばかりに、カッと、あおるように飲む。そのキックを楽しむ。しかし、食後の余韻とともに、ゆっくり味わうのも、これまたグラッパなのだ。

ワインなどのアルコール度数の低いものは、胃を活性化し、食欲増進に役立つ。食前酒でもあり、食中酒でもある。でも、グラッパは、デザートも食べ終わり、エスプレッソ時にオーダーする食後酒である。それでも、グラッパだけじゃなくお酒というものは、時と場所を選ばない。食後酒にこだわらず、朝のうちから飲むヤカラもいる。もちろん、エスプレッソに数滴落として味わったり、交互に飲んだりもする。

むろん、いろいろな飲み方でも楽しめる。これからの夏には、ソーダ 3:グラッパ 1、で割った今はやりのハイボール。また、寒~い冬には、お決まりのお湯割り。最近のニューヨークあたりじゃ、とかくスノッブなヤカラ向けにはやっているという冷凍庫でキンキンに冷やしたグラッパ、これもまたいいんじゃないかな。

アロマは犠牲にしてでも、ノド越しの良さや、アフターの香りを楽しめればよしとする飲み方で、これはこれで、グラッパの楽しみ方のひとつでもあるのだが…、グラッパの楽しみって、やっぱり香りなんだよな~

実は、その香り成分は、アルコールと同じ揮発成分なので、基本的に冷やしすぎは、よくないのだ。たとえば、フルーティーな香りが特徴のモスカート系のグラッパを冷やしてしまうと、そのマスカット系のアロマがまったくといっていいほど感じられなくなってしまう。だが、逆に、温度が高いと、アルコール臭が強く感じられる。

まずは、外気に触れさせ、時間をかけて呼吸させる。それは、グラッパの香りの変化を楽しむのにもってこいなのだ。というのも、グラッパにはじつにさまざまな香りが含まれていて、その種類は、ブランデーの2倍以上ともいわれているからだ。スコッチ・ウィスキーや、ブランデーと同じく、香りを楽しむことは、グラッパを味わううえで、たいへん重要なポイントでもある。

少しずつ口にふくみ、口中にまんべんなく広がるように、ゆっくり飲みほす。ついで、口に送り込んだ空気をすぐ鼻から抜いて、鼻の粘膜でエッセンスを感じとるようにして、グラッパのおいしさをタンノウ。

そんなグラッパをおいしく飲む方法は、やっぱりグラスと、温度。少し小さめのグラスが、おすすめ。リ―デルのグラッパ・グラスが、やはりいい。

それというのも、専用のグラスが、もっともグラッパの香りをわかりやすく感じることができるのだ。 ほかのグラスで代用する場合だと、スコッチ用のスニフター・グラスか、あまり液面が広がり過ぎず、飲み口が狭くなってるタイプがいい。

そう遠くない昔は、ワイン醸造所でも、自社のグラッパをつくっていたようだ。複数種のブドウのしぼりカスを混ぜて、蒸留していたらしいが、現在は単一種のブドウでつくられているものもある。そのうえ、最近では、Sassicaia、GAJAなどのブドウでつくられる高級グラッパも増えている。

「いいグラッパは、いいヴィナッチャからつくられる。」
といわれるように、新鮮なしぼりカスをすぐに蒸留できるように、蒸留業者はワイナリーの近くにある場合が多い。そうしたヴィナッチャは、銘柄ごとだったり、ブドウ品種ごとだったりと、その品質、新鮮さがGRAPPAの味に大きく影響する。また、その特徴を出すのはブドウ品種で、85%以上同じブドウ品種を使った製品はそのブドウ品種名を名乗ることができる。

そんなブドウの種類によって、ヴィナッチャに含まれるアルコール量が違う。とりわけ、赤ワイン用のブドウは、マセラシオンするためか、すでに発酵を開始した状態でやってくる。すでにアルコール発酵が済んでいるので、それはそのまま蒸留。白ワイン用の場合には、再発酵させて2~4%のアルコールをつくってから蒸留。このため、白ワインの場合、手間がかかる。昔からグラッパの原材料として使用されることが多いのは、赤ワインのヴィナッチャ。

ヴィナッチャの保存には、細心の注意が必要。できたてほやほやは、栄養豊富なため、バクテリアや細菌類、そして酸化の影響を受けやすい。保存をおこたると、酢酸や、メチルアルコールをつくりだし、グラッパの香りに重大な欠陥をもたらすのだ。

実のところ、イタリアのワインからできるしぼりカス全量のうち、およそ1/4しかグラッパとして蒸留されてはいない。のこりはというと、工業用アルコールとして蒸留されているのだ。それというのも、蒸留所の多くが、北イタリアに集中しており、南からのしぼりカスの移送と、その間の保存が難しいためでもある。

一般的に、赤ワインのヴィナッチャ100kgから、約5Lのグラッパ(アルコール100%換算)ができるといわれている。要するに、40度のグラッパだと、700mlのボトルで18本弱となる。

また、グラッパ製造のためには、このヴィナッチェには、一切の添加が許されていない。水をくわえて、水分を多くしたりすることができないのだ。同じ理由で、ヴィナッチェの洗浄すらも禁止されている。

現在、多くのグラッパ蒸留業者は、ヴィナッチャにダメージを与えにくく、温度管理もしやすい蒸気式か、湯煎式の蒸留器を使用している。昔ながらの直火式もあるにはあるが、直火式は湯煎・蒸気式にくらべて、高温になりやすいため、しぼりカスを焦がしたり、温度管理も難しく、熟練した技術が必要となる。

それに、イタリアでは一般的に、銘柄にもよるが、大手の蒸留業者は連続式蒸留器を使用し、小さな蒸留業者は単式蒸留器を使用する傾向がある。

連続式蒸留器とは、ヴィナッチャを入れる釜の上部が階層式になっていて、階層を上がるごとに分留・精留をしながらアルコール度数が高くなるよう設計されている。このため、一度の蒸留で、高いアルコール度数の蒸留酒をつくることができ、大量生産に向いている。

これに対して、単式蒸留器は一度の蒸留で、数倍のアルコール度数の蒸留酒しかつくれない。分留・精留を、その都度おこないながら、2~3回と繰り返し蒸留しなくてはならない。

連続蒸留器はクセの少ない、おとなしい蒸留酒をつくり出し、単式蒸留器は、個性的な蒸留酒をつくり出すといわれていて、モルト・ウィスキーや、コニャックなどはこの単式蒸留器を使用。

蒸留のはじめ、温度が上がりきらないうちに出る蒸留液が「テスタ」、蒸留の終りに出るのが「コーダ」と呼ばれ、最適温度に達していないため、不純物を含むことが多い。では、その「テスタ」と、「コーダ」は、いま一度蒸留することによって、より不純物の少ない蒸留液へと近づける。

そして、蒸留された後のヴィナッチェは、それこそ使い終わったブドウのしぼりカス、ヴィナッチェ・エザウステ(VINACCE ESAUSTE)、と呼ばれ、家畜の飼料や燃料として使用される。その昔は、それに火をつけ、蒸留器にくべて、再蒸留したそうだ。

その一方で、酒税を徴収するための規定は、事細かに定められている。どこの国でもそうだが、酒税に関しては、とかく税務署の立ち入りが厳しく、施設のあちこちで税務署のシールを見かける。

熟成庫の扉や、蒸留器のコックの部分に張りつけて封印するためのシールで、それは厳密に管理されている。年間生産量も、こと細かに計量して、報告する義務があるなど、グラッパはそのつくり方も大変なら、税務報告もかなり厳しい。

まだグラッパに税金の取り立てがなかったころは、お手製の移動式蒸留器をゴロゴロと台車で引いては、家々を訪問する蒸留業者もいたそうである。

※参考図書;「リキュール & スピリッツ通の本」(吉村喜彦著 小学館刊)