ダルジール警視の愛するグレン・グラント

グレン・グラント(スペイサイド)

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現代イギリスを代表する本格ミステリー作家の一人、レジナルド・ヒルの人気シリーズに、<アンドルー・ダルジール警視シリーズ>がある。ヨークシャー地方のある警察署に勤める太っちょでわがまま、頑固なダルジール警視が、ひそかに机のなかに隠し持っていたのがグレン・グラントだった。コクのある甘さと、ピートの風味に特徴があって、
「この味が分かるくらい成熟した人間」
にならないとまで、いわしめている。(※)そして、ごく淡い色なので、水のように見えると書いている。全体的にスパイシー、麦芽風味。フィニッシュはライト。


「シングルモルトがハイランド地方以外ではほとんど知られていなかった時代、グラスゴーから南米のギアナに至る数多くのバーで、唯一出されるシングルモルトであった」
と、著名なウイスキー評論家マイケル・ジャクソンの「モルトウイスキー・コンパニオン」、グレン・グラント紹介の冒頭にあるコメントだ。

1900年、世界に先駆けてシングルモルトを売り出し、イタリアで成功をおさめ、スコットランドでは、ヴィクトリア朝を代表する上品な銘柄である。また、かれによると、
「出荷量の大半は若い熟成年数のもであり、とくに重要なイタリア市場においては、5年物が出されている。熟成年数が表示されていないものは、イギリス国内における主要バージョンであり、10年以上の熟成モルトが使われている」
ともある。

日本では、フシギと人気がない。 ただ若い年数のオフィシャル・ボトルを大量に売っているから、長期熟成はだめかなのか、というとそうではない。ボトラーズから出る30年前後のものは、シェリー樽、オーク樽のどちらであっても、高品質で、その実力はあなどれない。

ボトルのデザインが変わったが、以前のものにはジェームスと、ジョンのグラント兄弟が描かれていた。蒸留所は、ウイスキーの世界では有名な兄弟であるジェームズとジョン・グラント兄弟によって、エルギンの南10マイルに位置するスペイ川の下流、ロセス村に1840年に創業された。その創業以来、シバース・リーガルのキー・モルトとして操業しており、「クラック・モルツ」の一つとして、他社ブレンドにも引っ張りダコのスペイサイド・モルトである。

ジェームズは著名な地方政治家であって、このスペイサイド地方まで鉄道を敷くために重要な役割を果たした。そしてそれは、グレン・グラントを運搬するのに大いに役立ったということでもある。もともとかれは、エルギンの法律家、政治家であり、ジョンは穀物商のかたわらアベラワー蒸留所で蒸留技術を学んでいた。

現在、ビジターに開放されている庭園は、1995年に復元されたものである。ジェイムズの息子、軍人であったが、インドとアフリカを旅行したさいに植物を買い求め、小さな塔と、破風を備えた「貴族が住むような」蒸留所裏の谷間に、庭園をつくり上げた。

歴史の大半を通じて、グレン・グラントはボトラーによってボトリングされたシングルモルトとして名声を博してきた。小さな文字で印刷したゴードン&マクファイルの名前が残っている初期のヴィンテージを、まだ見つけることができる。

仕込水でも、有名である。蒸留所背後の谷を流れるグラント河の水を利用。「ブラック・バーン(黒い小川)」と呼ばれるくらい、ピート色が強烈。グレン・グラントのモルトより、色が濃いくらいだ。それは、モルトの一部を新樽でねかせ、無色透明の原酒をうみ、これを混ぜるため、色がうすくみえるのだ。兄弟蒸留所のキャパドニックも、この水をつかっている。

香味バランスがよく、シングルモルト・ウイスキーでありながら、くせがなく、カジュアルに楽しむことができる。さわやかな柑橘系のフルーティな香りと、ほのかにオークを思わせる香り、フレッシュでドライな味わいが特長である。

オフィシャルは、数多い。5年から40年までと幅ひろく出まわっているために、それだけでショット・バー一軒が開けてしまうといわれるほどである。

それとともに、ウイスキーのブレンダーが、プレミアム・スコッチウイスキーをつくり上げるさいに、「最後の仕上げ」に欠かすことのできない原酒としても、長年高い評価を得ている。

1953年、ザ・グレンリヴェットのジョージ&J.G.スミスと合併。さらに、1972年にはロングモーンもグループに加わった。しかし、1977年、会社はカナダのシーグラム社によって買収された。その後、シーバス・ブラザーズ社系列の蒸留所としてシングルモルト部門で、イタリアを中心に世界第2位の売上を誇っていた。

2001年のこと、シーグラム社の酒類部門売却にともない、ペルノー・リカール社傘下となっている。そのペルノ・リカール社は、カンパリ社に対してグレン・グラントの全資産のほか、オールド・スマグラーと、ブレーマーの2大ウイスキーをも売却。

この取引は、ペルノ・ロカール社がイギリスの飲料グループ、アライド・ドメクを買収するさいに、欧州競争委員会と約束を交わしていた条項をまっとうしたものである。1840年設立のグレン・グラントは、カンパリ社に対し、その世界的ブランドを譲渡することになった。

発酵漕は、オレゴン松製が10基。ポットスチルはボール型と、洗練されたウィスキーづくりを目指して改良がなされ、細みで背丈の高い独特の変形スタイルの2タイプで、初溜釜4基、再溜釜4基の計8基。

1973年に4基あった蒸留器は6基に、1977年には8基に増設された。それぞれが精溜器を備えており、製造されるスピリッツのスタイルに、特別に洗練された味わいを与えているといわれている。

あっさり目のグレン・グラントは、5年や10年といった若いタイプのものに対してだけであり、熟成年数がかさなってくると、やはり樽香の強い。若くでもスモーキーさは強く、ややもするとフィニッシュは、燻したようなイメージがついてまわる。 

ボトラーズ物に関しても、樽香をつけているものが多く、味は濃い目である。おもに、ゴードン&マックファイル、シグナトリー、ケイデンヘッドといったボトラーからシングルモルトが出されており、オフィシャルで出されているものは、10年以下の若いバージョンである。

※ <ダルジール警視シリーズ>『死は万病を癒す薬』(レジナルド・ヒル ハヤカワ・ミステリ1830〉前作の爆発事故に巻き込まれ、かろうじて生き返ったダルジール。そこで、ハイランドパークを所望。(好みが変わったのかな? )だが、医師の言うことを聞かず、退屈きわまりない海辺の保養所に入れられてしまうのだが…

※参考図書;「スコッチウイスキー紀行」(著者:土屋 守、刊行:東京書籍)。

♪ ヴォーン・ウィリアムズ   交響曲第5番ニ長調  ♪

第2次世界大戦の戦火のさなかで、初演された平和への賛歌 。1611年版の正統的聖書と、ジョン・バンヤンの「ピルグリムス・プログレス(天路歴程)」にある賛美歌からインスピレーションを得て作曲された作品で、各所で賛美歌の旋律が挿入されている。

全曲を通して、荒々しさもなく、ゆったりとした美しい音色に満ちた作品である。しっとりとした回顧調の曲想を持つもので、とりわけ第2楽章は音階がアイルランド、スコットランド風の5音音階に基づくものらしく、日本人にとってもある懐しさを感じさせる。

第4楽章は、パッサカリア。祝福のファンファーレが高らかに奏される。平和で静かな「安らぎの」の全4楽章の交響曲です。クライマックスでは、第1楽章の冒頭が再現され、静かに祈るように終了。

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