ラフロイグ(Laphroaig)、アイラの巨人!

ああウイスキー! 遊びと悪戯の命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!  (中村為治訳 「R.バーンズ詩集」岩波文庫)

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アイラとは関係なしに、有名なモルトである。かつて、
「ラ・フ・ロ・エ・イ・グ」
と読んで、さぞ物知りのように得意がっていたものだった。そのラフロイグは、昔から味の深みよりも、アルコールと、アイラ特有のピート香が評判でもあった。それも、わずかの一滴の水が、そのピート香をグンと引き立たせるのだ。

とっつきにくいといわれるこのラフロイグ、それも大好きか、大嫌いか、両極端に分かれる極めて個性の強いモルトでもある。

濃い目のゴールドで、爽快ともいえるピート香、フェノリックで、ピーティなニュアンスは、瓶詰めの煙、あるいは正露丸にすら例えられてきたように、一種独特の香りが特徴。まさしく、手づくりのピートのきいた麦芽から生まれたシングルモルトである。

そんな個性のウラには、アイラ島特有の厳しい風土の、憂愁を秘めた甘美なスモーキー・フレーバーがひそみ、それがまた、愛好家には愛され、競って求められたともいわれている。1823年の酒税改正を機に、1826年には公認の政府登録蒸溜所となった。

ラフロイグとは、ゲール語で「広い湾の美しいクボ地」の意味である。それに、味や香りばかりでなく、建物の美しさは、スコットランドの各蒸留所のなかでも、1、2を争うものだ。

1キロおとなりの「ラガヴーリン」とならぶアイラの巨人的存在で、モルト愛好家にはなくてはならない1本である。

ポートエレン港から東に3キロ、大西洋の荒波がうち寄せる海辺のクボ地にあり、その岩礁にせり出すようにラフロイグ蒸溜所はある。密造酒の全盛時代だった蒸留業者の家に生れたドナルドと、アレックスのジョンストン兄弟によって、建てられたのが1815年。

かれらは人里離れた岩陰でピートのきいたモルトを醸造、小さな蒸留器で蒸留したウイスキーを、座礁の危険をかえりみず、小さな船でイギリス本土まで密輸していた。

しばらくは、ジョンストン兄弟の子孫が蒸留所の経営を引き継いでいたが、1887年に、ハンター家へと移る。しかし、1954年、オーナーのイアン・ハンターが死去。かれの片腕でもあったマネージャー、ベシー・ウィリアムソンへ譲渡されることになる。

今日のラフロイグの名声は、ベッシーに負うところが大きい。それはまた、スコッチ・ウイスキー業界の長い歴史のなかで、はじめての女性経営者でもあった。60年代から70年代にかけて、大改修工事の陣頭指揮をとり、「ラフロイグ中興の祖」、「ラフロイグのファースト・レディ」として人々に慕われた。

そのかの女の遺産で、特筆すべきは、現在でもなお、独自のフロアモルティングをおこなっていることだ。それも、麦芽を乾燥させるピートも、蒸留所の専用の採掘場、ピートベッドから切り出されたものである。それに、ピートを運ぶためだけに使用しているトロッコ列車が、蒸留所内を走っている。

このピートには、ヘザーだけでなく多量のコケが含まれていて、それがラフロイグの個性をつくり出している。さらに仕込み水には、サーネイグ・バーンという小川の水を利用している。それは、自然のままの状態で、水質保全された良質の水である。

それに、サーネイグ川周辺の土地をも蒸留所が所有し、水質確保に細心の注意を払っているのだ。このことからも、昔からの味わいを、かたくなに守っているということがいえる。

大麦を12時間浸し、その水を抜いて、また12時間。これを3回繰り返し、それを床一面に広げ、モルトマンは4時間おきに、黙々とひっくり返して、7日間。やっと、大麦が発芽する。

ポットスチルはストレート・ヘッドと、ランタン・ヘッドの2つのタイプがあって、初溜、再溜釜合わせて7基。再溜液のうち、むろん始めと終わりの部分はカットされ、真ん中の香味の良い部分のみを使用。

もう一つの遺産として、熟成には、テネシー産のファーストフィルのバーボン樽だけしか使用しないという頑固なこだわりがある。それが、ラフロイグの風味の奥行きに、甘さをあたえているのだ。

マッシュタンは最新式のフルロータータンを使用し、一度に投入するグリストの量は8.5トン。使用する酵母は純粋培養酵母のみ。6基あるウォッシュバックも近代的なステンレス製で、容量はというと42、000リットルと、アイラ島では最大級である。

現在はフォーチュンブランズ社が、ラフロイグ蒸留所を所有している。歴史的なウイスキーのテイストを再現するために、2006年、「ラフロイグ・クォーター・カスク」が発売された。より小さな樽を用い、冷却ろ過を避けることによって、100年前のウイスキーのような味わいがするといわれる。

チャールズ皇太子のお気に入りもあって、シングルモルトとしては初めてプリンス・オブ・ウェールズ御用達の勅許状をたまわり、化粧箱には羽のような飾りマークがある。バージョンによっては、ボトルのラベルにも記載されている。

オフィシャルボトルは10年、15年、10年カスクなどがあるが、どれも、熟成にはファーストフィルのバーボン樽。それも、ジャック・ダニエルをはじめとしたテネシー・ウイスキー樽だ。

10年ものは、味わいは、なめらかで、ややオイリー。海藻をおもわせるユニークな心地よいアフター・フレーバーが特徴である。15年となると、あの焦げたような匂いはほとんど消えて、芳醇さが口のなかにあふれかえるようだ。何はともあれ、モルト通にはなくてはならない一品である。

※参考図書 「スコッチウイスキー紀行」;著者:土屋 守、刊行:東京書籍。

♪ 歌劇;「ピーター・グライムズ(Peter Grimes)」 ♪

ブリテンの出世作ともなった本格的なオペラ、第1作目。イギリスを代表するオペラとして、今や世界中のオペラ・ハウスで演奏されている。ブリテン自作自演盤(コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ合唱団、管弦楽団)と、デイヴィス盤が有名。

イギリスの小さな漁村で、子供が殺害された事件がモチーフ。住民から疑われ、阻害され、伝統と、しきたりのはざ間に苦悩するピーター・グライムズが、最後には、身を海に沈めてしまう。集団と、個の対立という重苦しく、難解なテーマを秘めた魂(たましい)の物語に、心を打ってしまう。

それにつけ、ブリテンがここに描いた音楽は、素晴らしいの一言。ドラマの緊迫感と、救いのない切実さが、生々しい響きとなって、おそいかかってくる。前奏曲と、5つある間奏曲が曲のつなぎとして、じつに効果的。オーケストラ・ピースとして、そこからいくつかまとめたものがよく聞かれているようだ。