ゴルゴンゾーラ、おいしさのヒミツ。其の壱。

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チーズ誕生説には、とってもおもしろいハナシが伝わっているもんだ。イタリアご自慢のチーズ、『ゴルゴンゾーラ(Gorgonzola)』にも、もちろんある。

昔々、うっかりモンの若いチーズ職人がおったそうな。

ある日のこと、カードからホエーをを除くため、いつものように布袋に詰め込んだまでは、まあよかったんだが、恋人に会いたいばかりにぶら下げたまま帰っちまい、型詰めするのを忘れてしまったんだとさ。

翌朝、チーズ小屋に入ってぶったまげたそうな。なんとまあ、カード一面が青かびにおおわれておったんだ。捨てるのは、なんとももったいない。とはいうものの、親方に仕事をさぼったことがばれちまう。

それじゃってんで、朝のカード分と混ぜ合わしてチーズをつくりあげたんだそうな。それを、おそるおそる試食してみると、それはそれは今までにないなんともおいしいチーズだったというわけさ。

なんともあきれるくらい、イタリアらしいおハナシではないか。このチーズ、原形は紀元前からあったそうだ。ただ、その頃は羊乳がメインであり、山羊乳も使用されていたらしい。そんな青カビのチーズだが、紀元前10~5世紀ごろ、すでにロンバルディア地方でエトルリア人によってつくられていたそうだ。

『ストラッキーノ・ディ・ゴルゴンゾーラ』と、正式名称は、あるにはある。夏の間アルプスに放牧されていた牛の群れが、秋になると、ロンバルディア平原に帰るんだが、その途中のポー川流域の村・ゴルゴンゾーラでちょいと一休み。ミラノから北東へ20kmあたりの小さな村だ。そう、これが《ゴルゴンゾーラ》の名の由来だ。

この際に、歩き疲れた牛の搾ったミルクでチーズをつくったんだそうだ。”ストラッコ”とは、ロンバルディア地方の方言で、「疲れている」というイミである。そのチーズがやわらかくて、とてもおいしかったというわけだ。

しかし、残念ながら、ゴルゴンゾーラ村では今日、このチーズはつくられていない。ピエモンテ州・ノヴァーラ市周辺の10地方限定。またほとんどが工場制であり、伝統的な製法を守っているFDOC(統制原産地呼称チーズ)なので青カビの走り方は違っても、味そのものはあまり変わらない。農家製のものは少ない。1996年、DOP(原産地名称保護制度)収得。

ご存知の通り、チーズ切り口の青カビが鮮やかなグリーンで、大理石模様のように美しい《ゴルゴンゾーラ》には、2つのタイプがある。

近年の主流であり、また日本で人気の高い「dolce(ドルチェ)」タイプと、今ではちょいと復活しそうな気配のある「piccant(ピカンテ)」タイプだ。「ドルチェ」は甘口というよりも、穏やかとか、薄口とでも訳したほうがいいかも。「ピカンテ」は、むろん辛口。”ナトゥラーレ”とも呼ばれる。

1870年ごろから、海外へ輸出。評判が評判を呼び、生産量を増加。ノヴァーラに大工場ができ、熟成庫もできた。その<ドルチェ>タイプがゴルゴンゾーラの主流になったのは、第二次世界大戦後のことだ。

さて、その<ドルチェ>だが、見た目以上にまろやかでコクがある。軟らかく、クリーミーで旨味があり、青カビの風味もマイルドであるのに対して、通向きといわれる<ピカンテ>はカビの苦味・辛味はきつく、生地というか身がかたい。

その製造方法だが、もちろん伝統的な手法と、独特な道具類を使用はしているものの、プラスチック製の道具類など近代的なものに変えられるものは変えて、伝統的な製造方法は守られている。

青カビにしても、本来は空気中に浮遊しているカビの胞子が自然にチーズに付着したものだが、カビの増殖を安定化させるために、人為的にカビを加えることになる。そのカビが、チーズを発酵させ、特有の風味をつくるってわけだ。

近年の新技術を駆使した《ドルチェ》の「ウナ・パスタ法」(イミは、単層のカードの固まり)を、伝統的な製造方法からみてみよう。

その特徴はといえば、とうぜん青カビを繁殖させることにはなるが、菌糸は微々たるもの。風味にも刺激的なところがあまりない。それに、常温ではやや流動性を帯びたやわらかさを持っているってことだ。

各酪農家のあらかじめ熱殺菌を施しておいたウシ乳を、朝乳と夕乳とを1日1回、まずは集め合わせる作業からはじまる。

ちょいと厚めのチーズ・ケトルに入れたそのウシ乳を30℃に温め、乳系スターターを添加。それというのも、熱殺菌で失ったウシ乳の乳酸菌を補うってわけだ。同時に、水で溶かしたペースト状の、あるいは粉末状の青カビ(ペニチリム)も接種する。

20分ほどすると、ほどよい加減のジャンケットに変移する。そのできあがったカードをパスレード(大きな銅製のおわんのようなもの)に移し、パナローナ(※)を使ってカッティングしながら、よくかきまぜる。

それを一枚ずつ両手に持ち、前後に円を描くようにして、ジャンケットを小指大のカード切片にカットする。

その小さくカットされたカードがケトルの底に沈むのを待って、バケツですくいとり、各麻布に分配して包みとり、テーブルに乗っけて水切り。はたまた20分ほどたってから、そのカタマリをほぐし、パナローナを使い型詰めに入る。

直径が25~30cm、高さも25~30mほどのプラスティックの円筒である。麻布を内張りしたうえで、カード切片を詰めていく。3~4日かけて、上下反転の繰り返しでチーズの形を整えていく。

それが滞りなく終わると、型からはずして、短冊状にしたポプラ材を麻糸でつないだ帯状の巻きすのようなスダレのようなもので巻いて、生チーズの型崩れを防ぐ。そのスダレは、厚さが2cm、幅3cm、長さが15cmのものだ。そして、その周囲を輪ゴムで巻きつける。

そして、加塩。冷涼な部屋でスダレをはずし、食塩をすりこみ、またスダレを巻きつけるという作業を2週間ほど繰り返すのだ。

※);薄い真鍮の円盤をたたき、湾曲させた30cmほどの底の浅いボウルのようなもの。

                ・・・ Continue to the next ・・・・・・

参考図書:『チーズ図鑑』(文芸春秋刊)

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