クロタンって、な~に? 

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「ミルクをかためて、型に入れ、水分を抜いたら、左手で取り出し、右手で塩をかけ、それを握って、カタチを整えると、10日間の熟成を経て、出荷」
と、こんなハナシを、むかしのことだが聞いたことがある。まるで一口大のおにぎりをつくっているようで、
「なんてお手軽なチーズなんだ」
と、思わず笑ってしまったことがあった。両手でかるく包みこめられる大きさであり、デコボコがあったりして、それなりにふぞろいではあったから、なおさらだった。

そんなこんなで、パリのカフェでも大人気と聞いて、驚きもした。こんな特異なチーズって、どんなんだろう、と思わせるところが、これまたニクいところだ。


クロタン・ド・シャヴィニヨール』、通称”クロタン”。これが、そのチーズの名称だ。
愛らしい姿をし、食べ切りサイズ。ボソボソした触感があり、酸味がほとんどなくやや甘さを感じ、舌にしっとりとまつわりつくような食感。

産地は、もち、ロワール渓谷。あの「サンセール」で有名なワイン産地と、同じ地域でもあるのだ。なんでも、聞くところによると、日差しをいっぱい浴びる斜面ではワインをつくり、ちょいと日陰に入ったところでチーズをつくっているらしい。じつに、フランスらしいと思ったりしたもんだった。

山羊チーズとしては、比較的新しいというが、それでも19世紀のある文書には記載され、確認されている。

山羊乳を、まずは、乳酸発酵、およびレンネットでしっかり凝固。数日すると、上層部のカードと、下層部のホエーの二層に別れてくる。そのカード部分をすくいとって、用意してあった布巾にかき集める。

それを一昼夜吊るして、水切りをする。次いで、型詰めには入る。その水切りしたカタマリをヒシャクですくいながら、小さなツボのような型に小分けし、さらなる水切りを行う。

そのツボは、内径5cm、底の周辺に丸みをつけた高さ8cmの円筒形。その底部と、側面に水はけ用の小さな穴が1.5cm間隔で空いている。

それをまた、1日に2回、2日間にわたって反転する。そうすることによっって、余分なホエーを出し、カードは硬さを増していくのだ。3日後、ボディがしっかりと固まってくると、塩を軽くふりかけ、麦わらをひいた醗酵室の棚に移動する。

さらに、水気を取るために、またまた反転を繰り返す。3週間後、サイズは見る見るうちに小さくなって、およそ直径が4~5cm、高さが3~4cmほど、重さが60~110gぐらいのクロタンが出来上がる。その貯蔵期間を暗に長引かせ、青カビがつくのを待つと、風味がきつく辛くはなるが、”ツウ”が好むといわれるチーズとなる。

さて、大雑把に言って、食べごろは3段階。まずは、フレッシュなもの。次いで、上述したようにカビが着き始めたころ、そして表面はカビだらけで、カチンカチンになった2~3ヶ月もの。最近のものは、あまり熟成させないらしい。

それには、熟成の段階があって、まだ軽い酸味を感じる「フレ」。12日ほど熟成させた「ドゥミ・セック」と呼ばれるのは、半乾燥状態。「セック」は、乾燥しきったもの、という具合にその呼び名も違ってくる。

もう少し、詳しくみてみると、順にフレ、ドゥミ・セック、クードレ、プルーチ、35日以上熟成させたブルー、そしてトレ・セックと熟成が進んでいく。トレ・セックともなると、外皮がカビでおおわれ、組織は固くひきしまる。刺激臭が出始め、味わいが濃厚になるルパロにいたっては、ツボに入れられ熟成させるのだ。

熟成がまだ若いと、黄色身がかった外皮で、クリーミーで山羊特有の酸味がある。が、熟成が進み、表皮が灰色になってくると、組織が固く、引き締まってくる。これはこれで、またねっとりと、コクがでてきて味わいもよくなり、シャープな風味になる。

”シャヴィニヨール”は、ロワール河上流地域の小さな村の名前だが、クロタンの”クロ”は、素焼きのランプ名である”クロット”からきている。そのむかし、油を入れ、そこに布を差し込んで、火をともし持ち運んでいたランプである。なんでも、このチーズをつくっていたときに使用していた陶器のツボが、そのランプに似ていたので、そう呼ばれたそうだ。

もう一つのエピソードの方が、より面白い。というのも、何ヶ月も放置してあったこのチーズ、カビやら何やらで、真っ黒で、カチンカチン。それがまた、姿、形が羊や馬の”糞”にそっくりだったから、こう呼ばれたものらしい。驚いたことに、モーツアルトの下ネタばかりの手紙を読んでいるようなハナシだなあ。

このロワール河上流地域のサントレ地区が、フランスを代表するシェーヴルの生産地として有名になったのは、やせて、農作物には不適な土壌のせいばかりでなく、やはり歴史的な背景があったからこそであろう。

以前、「サント・モール・ド・トゥレーヌ」のところでも書いたが、無敵ともいえたサラセン軍に立ち向かったシャルル・マルテル以下のフランク王国軍隊の勝利に終わったトゥール・ポワチエの戦いで、国に帰れなかったサラセン軍の敗残兵が、この地でほそぼそと山羊を飼って、チーズづくりを始めたのが、契機となった。

そう、繁殖力旺盛な山羊は、食べる草さえあれば、どこにでも住めるのだ。しかし、ウイルペディアによると、山羊による環境破壊が深刻であるという。少し長いが、引用してみよう。

「厳しい環境にも良く耐え、繁殖力も強いので厳しい環境下では、貴重な家畜である。しかし、乾燥地帯や、冬場で、餌である植物の芽の部分を食べつくしてしまうと、残った樹皮や、樹根も食べてしまうため、植物が再生できず、森林破壊等の原因となることがある」
と、気になる記述もあった。まあ、ちと横道にそれた。

さて、食べ方だが生のままでも、おいしい。よく知られたところでは、クロタンのサラダ。オーブン、ないしはフライパンでうっすら焦げ目がつくくらいグリルしたクロタンをサラダの上に乗っけたやつだ。

以前パリで流行ったクロタンのサラダは有名。クロタンを熱々に焼いて、サラダ菜などの野菜にのっけるサラダだ。焼くと、山羊臭さがやわらかくなり、おいしさがグッと増すのだ。

また、地元では、フレッシュなクロタンに、エシャロットなどを刻んで、塩・こしょうして、オリーブ・オイルをかけていただくともいう。

お相手のワインは、もちろんサンセールの白が定番。熟成したものには、ちょいと珍しいサンセールの赤もいい。サラダや、バゲットなんかにあわせて、おつまみにどうぞ。、熟成していると、くるみパンとか田舎パンとあわせるのもいい。

参考; 『チーズ図鑑』(文芸春秋編、刊)

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