パルメザン(3)

はたまた、前回『パルミジャーノ・レッジャーノ』の続きだ。

パルミジャーノの生産地域は、貴草でもあるマメ科のアルファルファが密集し、牧草として質、量ともに大変めぐまれた酪農地帯である。

それだけに、ウシ乳も風味は芳醇。その上、乳脂肪、乳タンパク質などのチーズの出来にかかわるすべてが理想的なバランスで含まれている。

生産実績も5万トンと高い。そんな各工場では古来の慣習や手工業的な技術を今なお、かたくなにまもっている。

それと、注目すべきは搾乳から製造まで、「振動」の回避対策が採られていることである。搾乳直後の脂肪球とかカゼインミセルなどが外的な要因によって、物理的な変化がおこることがあるからだ。

主生産地であるエミリア・ロマーニャ州、ボローニャ県には、
「食べ、愛し、歌い、消化すること。これが人生と呼ばれるオペラ・ブッファの四幕である」
と言ってのけた、もう一人有名なオペラ作曲家がいる。

モーツアルトの死の直後1792年生まれ。幼い頃から音楽の才能をいかんなく発揮し、12歳でボローニャの音楽学校に入学。独自にモーツアルトのスコアから和声や作曲法を学んだ。メロディーづくりの天才だった。歯切れのいいリズムと、それも躍動感にあふれ、熱狂的な陽気さを帯びている。

19歳でオペラ界に電撃デビューするも、37歳でオペラから手をひき、38歳で人気作曲家を廃業し、それまでの20年間に、なんと40作も仕上げたという…、そう、もうお分かりだろうが、あのベートヴェンをもびびらせたロッシーニその人だ。1829年、グランド・オペラ「ウイリアム・テル 」を大成功させた後、突然オペラ界を引退。

数々のヒット作にもめぐまれ、お金もたんまりかせいだし、それにちょいと心の悩みもあったという。でも、いろいろカンぐるに、ロッシーニの音楽そのものが時代にそぐわなくなってきたというのが大きな理由だというが、どうなんだろう。

「ロッシーニをもってオペラは死んだ」
と、ヴァーグナーは宣言した。「ベルカント」技術を極限までにひきあげ、カストラートのために作曲した最後の作曲家でもあった。

その歌手と歌唱重視のかれの手法と、形式性が、ドラマ性を尊ぶロマン派に猛反発をくらった。イタリア・オペラの様式がロッシーニをもってして、歴史的役割を終えたのだ。

しかし、とうのロッシーニはというと、料理に没頭するため、高級レストランを開き、野菜を育て、豚を飼育することためだったというと、驚かれるだろうが、かれは本気だった。

といっても、美食家とも知られるロッシーニだけに、ブタを飼育するには理由があった。かれの愛してやまないトリュフ探しに使うためにブタを飼育したのだ。

オペラの世界でと同様、料理の世界でもかれは有名になった。かれの名前入りのレシピさえ残っている。あの牛ヒレステーキにフォワグラとトリュフのソテーを添えたのが「トルヌード・ロッシーニ」が、それだ。じつに美食の道を極め、
「ピアニストとしては三流だが、美食家としては世界一」
と言ったともいう。

「パルミジャーノで育った!」
と、イタリア人はよくいう。なにせ赤ちゃんのときから食べているのだから、当たり前か。

これは大人になっても変わらず、小腹が空いたりしたら、ちょっとパルミジャーノをかじってみたりというのは、イタリアではごくごく普通に見られる光景だ。そんなこんなで、パルミジャーノは、なんといってもイタリア人が最も愛すべき食材のひとつである。

食べやすく、使いやすいパルメジャーノはチーズの栄養を手軽に取り入れるのにも最適。もちろん生乳100%のナチュラルチーズ。脂肪分、コレステロールが低い割には、栄養価が高く、プロテインやカルシウムが豊富。ビタミンは、リン、B2ともに豊富に含まれている。

それにまた、パルミジャーノはパスタやリゾットなどの料理の味の魅力を十分に引きだしてくれ、さらにそのままオードブルやパンに乗せて食べても、クッキーやケーキにしても、パルミジャーノ自体のしっかりとした味を楽しむことができる。

けずりたてのパルミジャーノからは、パイナップルのような甘い香りがただよってくる。このパルミジャーノに、まろやかなバルサミコをつけて食べると、それはもうすばらしくおいしい。

レストランなんかで真ん中に穴を掘り、よくリゾットを和えたりするシーンなんかで使われているのを見たことがあるだろう。まあリゾットは一応は日本のお米でもつくれるが、ただ日本のお米はイタリアの物に比べて粘り気が強いので、本格的にというのならイタリア米を使った方がいいのだが…

さて、その食べ方だが、手で砕いたり、包丁で切ってそのまま食べると、上質の一皿になる。白い点はうまみの結晶であって、シャリっとした歯ざわりと凝縮されたうまみを楽しむなら、こうやって食べるのが一番いい。ビールのつまみにも最高。ピーラーで薄く削って、料理に添えると、きれいな飾りにもなる。

皮は固くてクセがあるが、クリームシチューなどに溶かし込むと、おいしく食べられます。

パスタでは、やっぱりカルボナーラ。おろして仕上げにパスタと絡めたり、ソースに溶かしたりして使う。パルミジャーノを使ったパスタと、そうでないものでは、仕上がりの次元が違うほど差が出るのだ。

カルパッチョの上にのせてもOK。刺身を皿にならべて塩、胡椒にエクストラ・バージンオイル、レモン汁、お好みのハーブなどをかけると、あっという間に出来上がり。

すりろして使えば、基本的には普通の粉チーズ。時間が経つと香りが飛んでしまうので、出来るだけ使う直前にすりおろすこと。

そのほかには、ちょいと有名なところでは、ミラノ風カツレツ。パン粉の中に、すりおろしたチーズを混ぜて揚げあげると、チーズ風味のカツになる。

魚のオーブン焼き; グラタン皿などに塩・コショウしたサーモン(タラ、サバなど)を入れ、すりおろしたチーズやパセリなどを混ぜたパン粉をかけ、オリーブオイルを軽くふりかけ、オーブンで焼くと出来上がり。

シーザサラダ; サラダにドレッシングをかけ、すりおろしたチーズをふりかける。半熟卵やカリカリに焼いたベーコン、クルトンなどをかけると、なおOK。

それに、パルミジャーノせんべい; テフロン加工のくっつかないフライパンに、油をひかずにパルミジャーノのすりおろしを、ギョーザの皮くらいの大きさにして、うすくひいて、焦がさないようパリパリになるまで焼く。ワインに合うこと、受けあい。

参考図書;『音楽のたのしみ』(白水ブックス刊 ロラン=マニュエル著 吉田秀和訳)